~日本の医療、特に小児医療を守るために~
日本小児科医連盟の皆様におかれましては、日々小児医療保健にご尽力いただき深く感謝申し上げます。日本の小児医療は近い将来、崩壊する可能性が高まっています。 我々日本の小児科医はその事実から目をそらしてはなりません。小児医療を守ることは日本の子ども達、日本の小児医療を担う次世代に対する我々の重大な責務です。
2025年6月に内閣府から示された「骨太の方針2025」の、マクロ経済運営の中長期的な持続可能な社会の実現概要では以下のとおりです。
(1)全世代型社会保障の構築
• 医療・介護・障害福祉分野の処遇改善・業務負担軽減等
持続可能な社会保障制度のための改革実行、現役世代の保険料負担を含む国民負担軽減を実現
• 中長期的な介護提供体制の確保:医療・介護連携、多職種間の連携、介護テクノロジーの社会
実装、事業者間の連携・協働化や大規模化、介護人材の確保・定着
• 中長期的な医療提供体制の確保:かかりつけ医機能、適切なオンライン診療の推進、新たな地域医療構想、
医師偏在への対応、妊娠・出産・産後の経済的負担の軽減、小児周産期医療、リフィル処方箋
• 働き方に中立的な年金制度の構築:更なる被用者保険の適用拡大、「年収の壁」への対応
• 疾患に応じた対策等:がん対策、循環器病対策、慢性腎臓病対策等、女性の健康支援、睡眠
対策、いわゆる国民皆歯科健診、リハビリテーションによる自立支援・在宅復帰・社会復帰
• 予防・健康づくり、重症化予防:データヘルス計画に基づくコラボヘルス、エビデンスに基
づくPHRや健康経営、職域でのがん検診の普及、糖尿病性腎症の重症化予防
• 創薬力強化とイノベーション推進:国際水準の治験・臨床試験実施体制、医薬品安定供給
(2)少子化対策及びこども・若者政策の推進
• 「こどもまんなか社会」、少子化の流れを変えるとともに、こども・若者のWell-beingを高める
• 加速化プランの本格実施と効果検証の徹底:保育士等の処遇改善、保育士配置の改善、こど
も誰でも通園制度の全国展開、放課後児童クラブ、子ども・子育て支援金制度の円滑な導入
• こども大綱の推進:困難に直面するこどもや青年期の若者等の支援(こども・若者シェル
ターなど)、プレコンセプションケア、こどもの貧困解消、ひとり親家庭支援、児童虐待の
予防、ヤングケアラーの支援、こども・若者の自殺対策
内閣府「骨太の方針」概要より一部抜粋
さらに、従来の2年ごとの診療報酬改定だけでは対応しきれない現状を受けて、経済・物価動向に連動した迅速で機動的な支援制度の検討と極めて重要な方向性が明示されました。全国の病院小児科、小児科診療所は構造的に赤字経営を強いられる状況です。病院小児科はこれまでも病院経営上「お荷物」と見なされ小児科の閉鎖状況が常態化しています。2024年には出生数68万6千人、合計特殊出生率1.15(2008年各109万人、1.37)と59%減で44年連続減少。小児科診療所数は2008年22,503 に比し2023年17,778と21%減少しています。小児医療は、採算性に乏しいうえに、対象人口の急速な縮小、疾病構造の変化、コロナパンデミック後の受診行動変容も重なり現行の診療報酬体系では存続が危うい危険水域に入っています。このことは皆様がここ数年ひしひしと肌で感じていると思います。私たち小児科医は、子どもたちの心身の健康を守れない国では、社会の持続・発展などあり得ないという、ごく当たり前のことを改めて強く社会と国に向けて主張しなければなりません。
この「常識」を政治・政策に確実に届けるためには、政治の中に医療・保健の声を持ち込むことが不可欠です。
このような切迫した情勢の中、与党・野党といった枠組みを超えて、医療・小児医療を守るために政治を動かす力をもつ多くの代表者が必要。そしてその強い存在感が求められます。存在感がなければ、子どもを代弁する小児科医の発言力が政策決定の場で十分に重要視されません。日本の医療を憂う代表者の皆様の努力で形となった、せっかくの「骨太の方針」も「骨抜き」となり、現場の切実な声が政策に反映されません。この厳しい現実を、ぜひあらためてご認識いただきたいと思います。そのような方は、医師としての臨床経験と医療政策への深い造詣を備え、制度改革の中で現場の声を正確に届けられる人材でなければなりませんがきわめて限られます。
私たちの子どもたちと医療の未来を守るために、どうか会員の皆様一人ひとりが、2025年は従来の施策を改善・是正する重大なスタートであることをご理解いただき、日本の医療について真剣に向き合える我々の代表者を見極め、自らの行動でこの国の小児医療を守る決意をお持ちいただきますよう切にお願い申し上げます。
2025年7月
日本小児科医連盟 委員長 伊藤 隆一